昨日は、アメリカのボーイスカウトアメリカ連盟が、複数の性的虐待訴訟により破産というニュースに驚いて情報を収集しようとしていたのですが、日本では児童相談所の対応がニュースになり、いろいろと考えてしまいました。

神戸市の児童相談所(こども家庭センター)で、2月10日(月)午前3時すぎに「親から家を追い出された」と来所した小学校6年生の女の子にインターホン越しに対応、彼女が大人っぽく緊急性を感じないと判断し「警察に相談しなさい」と伝えて対応しなかった、というのです。

この児童相談所の夜間・休日の対応は、あるNPO法人が受託しており、この女の子が来所したとき、このNPO法人の男性職員が1人で担当していたとのことです。この方に児童福祉の知識や相談援助業務の実績などがどの程度あるかはわかりません。

女の子は交番で保護され、警察署からこのセンターに連絡があり、午前5時半ごろセンターが彼女を保護しました。彼女はセンター→交番→センターと移動することになりました。
 
センターのマニュアルでは、夜間・休日の来庁者や通報があったら係長に報告することになっていたものの、対応した職員は報告を怠っていました。係長がこの件について知ったのは10日朝、警察からの連絡があってからです。 

さらに、センターから所管の市のこども家庭局への報告がなく、市は18日の報道機関からの問い合わせで事態を知ったそうです。そして19日、このNPO法人が会見を開き、理事長が「子どもに不快な思いをさせて申し訳ない」と謝罪。市はこのNPO法人にマニュアルの徹底を指示しました。 

もし報道機関から市への問い合わせがなければ、委託先のNPO法人は何もなかったことにしてすませるつもりだったとは、思いたくはないのですが。。。 

小学校6年生の女の子ともなると、なかには大人っぽい雰囲気をもっている場合もあります。年齢は尋ねなかったのでしょうか。彼女がどのようにしてこのセンターのことを知ったのかはわかりませんが、最初に助けを求めた場所で(結果として)たらい回しにされたと思うと辛いです。 

この女の子のことを思ってニュースに反応したことが発端ではありますが、同時に、ニュースにある「市がこのNPO法人にマニュアルの徹底を指示」にちょっとひっかかりました。マニュアルの徹底が「着地点」なのでしょうか。 

インターネットで配信されているいくつかの新聞記事で全てを把握することは難しいのですが、女の子への対応について状況を整理すると、 

  1. 何らかの対応マニュアルは存在していた(センター独自で作った?市が作った?)
  2. 当日担当のNPO法人職員(以下、当該職員、と呼びます)はインターホン画面で「大人びているし緊急性がない」と判断した(インターホン越しのみの対応はマニュアル違反?画面だけで判断したのはマニュアル違反?)
  3. 当該職員は、女の子に保護をせず警察に行くように伝えた(マニュアル違反?)
  4. 当該職員は、この女の子が来たことを係長に報告しなかった(報告しなかったのはマニュアル違反)
  5. 係長は、この件を知って当該職員に聞き取りを行なった(マニュアル通り?)
  6. 係長は、この件を市に報告しなかった(マニュアル違反?)
  7. 市は、このNPOにマニュアルの徹底を指示した(マニュアルの徹底を指示するのは、何かあったときの市のマニュアル通り?)
  8. NPO理事長が会見で「子どもに不安な思いをさせた」と謝罪した(何かあったときに会見を開き謝罪するのはマニュアル通り?)
ということになるでしょうか。マニュアルを無視したとわかるのは、4番目だけです。あとは、マニュアルが何をどう定めているのかはわかりません。係長に報告しなかったことが一番の問題なのか。当該職員以外の人だったらどういう対応になったのか。。。意地悪なツッコミかもしれませんが、係長も市への報告をしなかったわけで、当該職員だけが報連相しなかったことをとやかく言われるのは少しお気の毒な気もします。 

報連相は「しなさい」と言うだけでできるようになるものではありません。日頃からの指導だったり、報告しやすい雰囲気作りや、何をどう報告したらよいかがわかりやすい書式なり手順なりが確立されていること、そして報告に関しての研修や添削なども大切です。 

そして、マニュアルは「ここに書いてあることをしておけばいい」というものでも「ここに書いてあること以外はするな」というものでもありません。誰が対応しても最低限このことはできるための「基本的な業務手順」を示したものです。また、マニュアルには「何のためにこのような手順を定めているのか」、つまり「私たちは何をめざしているのか。私たちは何に価値をおいているのか」も明記され、常日頃確認しあう必要があります。マニュアルを軽視・無視しても、マニュアル至上主義に陥ってもいけません。「何をどう行なうか」も大切ですが、「なぜ、何のために行なうか」の視点が欠けてしまうと、現実離れしたマニュアルができあがってしまいます。 

今回のニュースを見て、NPOのみなさんにお願いしたいと思ったのは、 
  • 自分たちの活動で「普通なら」こうするでしょ・これくらいできるでしょ、という暗黙の了解・期待に頼っていたり、1年以上点検を行なっていないマニュアルがないかなどを確認し、マニュアルを作成・見直し・更新する
  • マニュアルの内容が適切か、シミュレーションしつつ判断する。
  • たとえばマニュアルに「報告する」とあるなら対応する報告フォーマットがあるか、そのフォーマットは適切か確認する
  • 職員やボランティアなど、該当する活動に携わる人たちや理事を対象に勉強会・研修を定期的に実施する 勉強会・研修の際には、なぜこの手順が必要か、ゴールは何かを明確にする
  • 座学だけではなく、シミュレーションやロールプレイを用い、考えたり身体を動かしたりしながら頭と身体で覚えるようにする
といったことです。今回は、たとえば、安全・安心な環境を求めてきた子どもを失望させないことや、信頼して相談できる大人がいることを知ってもらうことが重要だったと思います。関係者内の報連相の決まりを守ること自体が目的ではありません。だとすれば、報連相を守るようマニュアルの徹底を指示することが大切なのではなく、「報連相を含め、子どもに安全な環境を確保すること」の徹底を指示することではないかと思います。 

リスク・マネジメントとして、業務マニュアル作成のお仕事をいただくことがあります。実際に今もあるNPOのマニュアル作成を進めているのですが、マニュアルを整備するなかで「この作業の進め方をどうするか、選択肢はいくつもあります。組織として検討・決定してください」ということも出てきます。その組織としての理想と現実(投入できる時間や予算など)をかけあわせて最適解を見つける必要があります。理想と現実の間での攻防で残ったものに、その団体の価値観や特徴が出ると思っています。 

今回のニュースになった事例の当事者となった当該職員の方やNPO法人のことを存じ上げないので、決めつけになるような判断をするつもりはありません。神戸市やこのNPO法人が、すべきことを何もしていない、と批判するつもりもありません。 

こういうニュースが出たときに、NPOのみなさんには「ひどいね」とか「信じられないね」、「自分たちとは違う活動分野の話だね」と他人事ですませず、「私たちは大丈夫だろうか」と自己点検する機会にしてください。 

【参考】 
*すべて2020年2月19日アクセス 
「警察に相談しなさい」児童相談所、女児追い返す 午前3時すぎ来所、保護せず  
未明、児相が女児を門前払い 窓口職員「警察に相談を」 神戸 
当直「大人っぽく見えた」神戸市児相の小6門前払い 
深夜に女児追い返した児童相談所 市への報告怠る  
『午前3時に小6女児追い返した児童相談所』規則にも違反…当直のNPO法人が会見